人形
1842年 5月15日
ある古い館で二つの白骨死体がメルヘンチックな部屋のベットの中で
仲良く手をつないで発見された・・・・
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1820年 2月21日 寒いオクホーツの町。
小さな古美術商の前で若い女と、少し年取った男が立っていた。
「叔父さまー、ねぇ、あの店にある『人形』が欲しいわ。ねぇ?いいでしょう?」
「お前はもう25だろう?子供みたいな事を言って。何でアレがいいんだ?」
「だって、あの子に似ているんですもの。近くに居た方が都合良くありませんこと?」
「そうだな・・・・買っておくか。」
カランカラン
「いらっしゃいませ。どれか気に入った物でも?」
「あぁ、店頭にあるあの『人形』が欲しい。いくらだ?」
「アレですか。いくらでもよろしいですよ。そのかわり約束が。」
「約束ですって?」
少し不安な顔をして女は聞き返した。
「えぇ、完全ガラスのケースにお入れください。どこも開けてはいけませんよ。
くれぐれも血にはご注意ください。曰く付きですが、それでも?」
「それでもだ。ほら、200万カロンだ。」
男は、ガラスケースから『人形』を取り出し、馬車の後部に乗せて走り去った。
店内に残された男は不安そうに、馬車の後ろ姿を見送った。
「姉様ー!!どうしたの?その大きな人形?」
駆け寄ってきた小さな男の子は言った。
「ふふふっ。ようやく手に入ったわ。あの子は私が作ったんだもの。あはははは。」
男の子は狂ったように笑う姉が担いでいる『人形』を見てぞっとした。
それは微かに口元に不気味な笑いを持っていたのだ。そして、これから起こるちょっとした出来事が、後になって恐怖に変わる事など到底この時の彼には計り知れない事だった・・・・
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それから、12年後・・・・
「はぁあ・・・」
若い男が部屋にため息をつきながら入ってきた。その男は疲れた様子でぼやいた。
「兄上はどこにいったんだろう?」
「さぁ、知らないわ。」
誰もいないはずのその部屋には十二単を思わせる様な色とりどりの布を纏った若い少女が座ってこちらを向いて意味ありげな含み笑いをした。
「え・・・・・?」
その男は少女の漆黒の目に吸い寄せられた。
「知らないわ。と言ったの。だぁれ?それ。ふふふふっ」
少女はそう言うと立って歩きだした。
ゴトン・・・ゴロゴロゴロゴロ・・・・
「ゴトン?」
少女が立ち上がった瞬間に何か重たいものが足元に落ちて鈍い音をたてて転がってきた。戸口で不気味な微笑みを浮かべている少女を見ながら、ふと足元に目をやった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
大きな叫び声をあげて、男は腰を抜かして後ずさった。
そこには彼の探していた兄の顔が、驚愕の表情を浮かべて転がっていた。
「き、君は一体・・・?あ、あれ?」
目に涙を浮かべながら、年の離れた兄の変わり果てた姿に驚きながら、
戸口に立っているはずの少女に声をかけた。
しかし、そこには誰もおらず、だた窓から入ってくる風が通り過ぎるだけだった。
彼はバタバタと階段を駆け下りた。
「お、叔父上にし、知らせなきゃ・・・」
階段を駆け下りる彼の上では誰かがクスリと笑った。
「叔父上ー!!叔父上はどこですかー?」
天井の高いホールに男の声が響く。
どこまでも続く赤い絨毯の上を息を切らしながら、南の叔父の部屋まで走った。
一方、遠くから響いて近づいてくる甥の声に眠っていた叔父は、眠い目をこすりながらゴソゴソとベットから這い出てきた。
ガウン一枚を羽織った姿はどこか気品を思わせたが腹が出ていて全然似合わないガウンを脱ぎ捨てると傍の椅子に掛けてあった服をつかむとゆっくりと着た。そして、丸い眼鏡と葉巻をくわえると眉間にしわを寄せて扉を開けた。
「どうした?帰ってきた早々、何だ?うるさい。心地よく寝られないではないか。」
「あ、兄上が・・・」
「はぁ?階段から転げ落ちていたか?それとも女装でもしていたか?」
「ち、違います!いいから来てください!」
「まったく・・・この前の様なことだったら承知しないぞ。薫」
ぶつくさと文句を言いつつ、薫と呼ばれた男の後ろからめんどくさそうに先程の部屋に行った。が、兄の生首も血だまりも跡形もなく消え去っていたのだ。
「またか、この前もそうだったじゃないか。」
「今度は違うんです!十二単の様な色とりどりの布を纏った少女が立った後に兄上の首が落ちてきたんだ。・・・・でもどこかで見た事があるな・・・まさか。」
「どうした?」
突然考え込んでしまった甥の顔をのぞき見ると、ふと呼ばれた様な感じがしたので、
彼はホールに飾ってある『人形』のもとに歩いて行った。
それを見た薫は、黙って付いていくと、叔父は脚立を持ってくるように薫に言った。
「こんなものを持ってきてどうするんですか?叔父上?」
「いいから、組み立てて『人形』の足元を見ろ。まさか・・・かもしれん。」
言われるがままに、薫は脚立を上り絶句した。そして、目線を感じ上を向いてみると、
動くはずのない『人形』が小さい椅子に座って笑って下を向いた。
うわぁぁぁぁぁ!!『人形』の下に、兄上と姉上と二日前に消えた僕の友達のが・・あ・・・・っ・た・・・・・」
ガタガタと音をたてながら落ちてきた薫は、目を見開いてカクカクとあごを動かしながら必死にしゃべった。
「あはははははっ、やぁっと気付いてくれたっ♪ふふふふっ、あははははははは。」
甲高い声で少女の人形はくるくると重そうな服をつかんで、その場で回り始めた。
そして飽きたのか外に向かった走り出した。
「・・・・・・・」
薫と叔父は腰をぬかしたまま床に座っていたが、すくっと立つと外出用コートを着ると館に鍵をかけ、薫とともに叔父は近くの古美術商の所に急いだ。
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