人形
それから、お父様はマスターの買い癖が直らないと嘆き、1年ぐらいしてマスターを解雇してしまった。幸太郎さんは自業自得だと泣いていた。
ジュリアとルーはそれから2年後結婚して、赤い髪のジュリアそっくりの女の子が生まれた。ミセス安津子は、ルーに似た子が生まれなくてよかったとまるで自分の孫のように可愛がっていたし、僕も彼女が好きだった。
リーナはメイド長が高齢の為辞職したので、その後を引き継いで若いメイド達を指導する様になったが、いまいち頼られてなかった。
でも、彼女の作るいろんなジャムは評判がよく、皆こぞって作り方を教わっていた。
彼女は、
「メイド長ほど、アタシは経験が無いもの。でもアタシの明るさは薫様が元気をいつもくれるからですよ。」と言ったが、
そのあとに「でも朝は早めに起きてくださいね。」
と付け足した。
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ある日、お父様は屋敷にいる全てのひとにヒマを出した。
リーナと執事の加野さん、幸太郎さんは残っていた。
「さて、これから、僕の遠い親戚であるお爺さまの屋敷に向かう。だけど、そのお爺さまは少し気難しい人でね、うるさいと怒られてしまうかもしれないんだ。」
「だから、薫?おとなしくしておいてね。」
「はい。お母様。」
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薫はあの頃より背は伸びたけど、大好きなお母様の手を握って、馬車に乗り込んだ。
その時は、まだ何も誰も気づかなかったんだ。
お父様の働きで、おばけ植物を売買する人もいなくなっていたし、買う人もいなくなったし、どこかの家でそれを見る事も無かった。もちろん、あの忌まわしい放火事件も姿を消していたのだから。
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ぎぃぃぃ
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重たい鉄の扉が半分開いた。
「お爺さまー?いっらしゃいますかぁ??」
お父様が静かに、そして響く様に呼んだ。
「いらっしゃい。よく来たね。」
「わっ!!」
「そんなに驚く事か?」
「当たり前でしょう!!いつからそこにいらっしゃったんですかっ。」
真後ろから声がかかったので、薫とエレナはすごくびっくりしてその場に座り込んでしまった。
「あぁ、お前達が扉を開けたあたりかな。だが、すまんな。エレナ。君をそんなに脅かしてしまって。加野の目線がとても痛いよ。」
「当然でしょう。」
ふと加野とヒューイの後ろに隠れてじぃっとこちらを見ている男の子を、見つけて彼は言った。
「この子が、君たちの子かね?」
「え、えぇ、そうですわ。」
エレナはびくびくしながら、薫の手をとり震えた。
「エレナ、何もとって喰おうとは思っておらんよ。」
エレナの様子を見てひどく慌てた様子だったが、ふふっと意味ありげな微笑みを浮かべるとベルでメイド達を呼んだ。
そのメイド達は何か悪い物でも食べたのか、皆青白い顔をして一切言葉を発しなかったし、死んだ魚のような目をしていてとても怖かった。
「で、何の用だったんですか。家族全員を呼んで、しかも屋敷の者にヒマを出せなんて。第一、僕は貴方とはほとんど面識もないじゃないですか」
お父様はすごく怒ったようにお爺さまに言った。
「・・・・最近。ヒューイ。君の所はサトハエレメンツを批判したり、弾圧しようとしているそうじゃないか。」
「だから、それが何の関係があるんですか。」
「あそこは、私の甥っ子がやっている研究機関でね、君から彼の所の批判を少し抑えてもらおうかと思ってね。」
「だから、それが何故、私の家族に関係するんですか。はっきりおっしゃってください。」
僕は何となく、そう何となくここにいちゃ行けないと思った。いつのまにか、僕の周りにはさっきのメイド達のように、死んだ魚の様な目をした黒服の男達がいたからだ。
ふと、僕を後ろから抱きしめているお母様の顔が、すごく青ざめているのに気がついた。
「お父様・・・」
「どうしたんだい?」
お父様は、僕の方を見ると驚いた顔をして、ものすごく悲しい顔をして叫んだ。
「エレナァァァァァァ!!」
その声と同時に後ろから、リーナの叫び声と加野さんの声が響いた。
「お嬢様!!」
「奥様っっっ!!嫌ーーーーーー!!」
何が起こったか分からなかった。お父様は僕が振り向かない様に顔を手で覆った。
「見ちゃだめだ。薫、お前は後ろを振り向いちゃだめだ。」
「はっはっはっ。これで分かったかね。ヒューイ。」
「貴方は悪魔だ。今までの事件は全部貴方がやったんですか。」
「私が??なわけないだろう。愛に狂った私の甥っ子がやっただけだよ。」
お父様はお爺さまの言葉に涙を流した。そして、僕の頭を撫でながら小さな声で言った。
「薫、お前だけは・・・・お前だけはお父様が、守ってあげる。」
繰り返し繰り返し・・・・
その時だった。
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バァーーーン
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一発の銃声が鳴り響いた後、後ろの方で誰かが倒れる音がした。
「リーナっ!!ゴホッ・・・ゴホッ」
加野さんの苦しそうな声が聞こえる。
小さいとても小さいリーナの声が聞こえる。
「旦那・・・様、薫・・様、おうち・・・帰り・・・しょう。奥様が・・・・・。」
後ろの方から、剣を抜く音がした。
「加野ぉぉっ、やめろぉぉぉぉ!!」
お父様が叫んだ。
後ろの方で人がバタバタと倒れる音がした。
加野は、剣の達人だった。
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「若い頃は地区大会で優勝したこともあるんですよ。」
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前に本人から聞いた事があった。
何だかすごく涙が出てきた。小さく小さく僕は、お父様の腕の中で泣いた。
大好きだったお母様が死んだ。優しくしてくれたリーナが死んだ。
加野さんは、僕らの為に人を殺してる。お父様は僕をぎゅっと抱きしめて守ってくれてる・・・・・幸太郎さんは?
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「ぷはっ、ねぇ、お父様!幸太郎さんは!?」
「薫、ようやく気づいたかい?幸太郎はね、私の後ろにいるよ。」
お爺さまが静かに言った。
「後ろ??」
お父様と僕は、お爺さまの後ろに目をやった。
「!!!!!!」
そこには、目玉をくりぬかれ、腸が飛び出し、磔にされ、見るも無惨な格好をした幸太郎さんと食人植物に下半身を喰われ、苦痛に歪んだ顔を見せるマスターがいた。
「嫌だっ!お父様!あんなの幸太郎さんじゃない!!」
僕は泣きながら、「だってアレが、あの優しくておおらかな元気のよくて屋敷に残ったはずの幸太郎さんなわけがない。」と大きな声で叫んだ。
「そうだ、幸太郎は屋敷にいる、アレは幸太郎じゃない。」
お父様はすごくすごく泣いていた。
「はっはっはっ。ヒューイ、薫を返してもらうぞ。」
「・・・・・?はい?返す?」
「そうだ。返してもらう。」
「この子は貴方とは関係ないでしょう!!」
お父様は、立ち上がってお爺さまの方へどんどん歩いて行きながら叫んだ。
「残念だなぁ。」
そう言いながらお爺さまは、来た時に見た顔をしたように見えたが、目の前で火柱が立った。
一瞬何が起きたか分からなかった。ただソレが、僕の方を向いて何か叫んだ。
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「薫!!逃げろーーーー!!」
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お父様だ。
お父様は、火柱になった。
後ろでは、首にたくさんの剣が刺さった加野さんが蠢いて声にならない言葉を言った。
「おにげください。」
そう言うとニコッと笑って首が落ちた。
リーナは涙を流したまま横になっていた。
死んだと思っていたお母様は玄関の入り口の所に寄りかかっていた。
「さぁ、薫。お母様と逃げましょう。」
体からたくさんの血を流しているお母様はすごく苦しそうだったけど、一生懸命僕は走った。
お母様の手をつかんで、馬車にむかって走った。
けど、無かったんだ。ボロボロになった馬車の残骸があるだけで。
「お母様。馬車が無いよ。どうしよう?」
僕は振り返って言った。そこにいるはずのお母様に。
でも、そこにあったのはお母様の腕だけだった。
少し離れた所にお母様はいた。
お父様と同じ様に火柱になって。
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