人形
「はっはっはっ。」
叔父の声で薫は回想から目覚めた。
「これでアレは誰もいないこの館で一人でこの試験管の中で生きてきたんだ。薫にはオブジェとしか見えていないだろうな。」
「じゃぁ、コレをこの屋敷に放つんですね?自分の物にしてしまいたい兄の欲望が、何も知らずに自分の姉と兄を殺した妹と自分の子供を殺し正気に戻って発狂するのを確認したら、貴方の研究は完成するんですね。」
「そのとおりだ。お前はよくわかっているじゃないか。サトハは、自分の愛しい者を壊したいと小さいときから言っていた、壊してしまうと涙を滝の様に流して泣いていた。」
「発狂する度に殺人者として精度が上がってきた。これが終われば、殺人人形<キリングドール>として完成する。長年の夢が完成する。ふふっ・・はっはっはっはっはっ」
大きな叔父達の笑い声を背に階段を上がり、アゲハの部屋ではなく、自分の部屋へと薫は向かった。そして、大きなぬいぐるみを持ったアゲハを抱き寄せた。
「薫?」
「おじいさまは、お母様達を僕の前で殺して、叔父上の研究の為に僕をにこの屋敷に閉じ込め・・・・・?」
「どうしたの?」
「ちょっと待て。ここって・・・・、それを置いてちょっと気になる所に行こう。もしかしたら、ここはアゲハ、貴方が生まれ、凄惨な事件があった場所かもしれないよ。」
アゲハはビクリと肩をふるわせて顔をあげた。そして、ぬいぐるみを投げると薫と手をつないで、三階に上がる階段をゆっくりと上がり始めた。
そして、叔父には入っては行けないと言われた扉を開けて絶句した。
「あぁぁぁぁ!!」
部屋に入ると左側に白骨した死体が、はりつけにしてあった。
正面にあるベットは赤黒く変色し、小蠅が飛んでいた。鼻につく様な匂いに吐き気を催した。
アゲハはその場に立ち尽くしたが、薫は口元を押さえ、部屋の外に出た。
「ここは、事件の起きた館・・・・・・そして、そして・・・」
薫は吐き気に絶えながら言った。そして、アゲハの様子をうかがった。
「薫。きっとサトハ兄さんには勝てない。だから、明日になる前に逃げよう?」
二人は抱き合った。
これから起きる事に恐怖を抱きながら・・・・しかし、誰かが上がってくるのが聞こえ、扉を閉めると逆の方向に歩き出し、物陰に隠れた。
ズルズルと何かを引きずる様な音が聞こえる。そして、聞き慣れた男達の声が聞こえた。
「まったく、自分の欲望の為なら何でもしそうだな。」
「薫様もかわいそうだな。結局あの人もここの家系の一人なのさ。」
「は?はははっお前ら、あの坊主に同情か?」
薫とアゲハを食堂に連れて行った男といつも玄関先で持ち物を持ってくれる男が言い食堂から出る際に不気味な言葉を残した男が笑いながら言った。
「これでお別れだと思うと悲しいって話さ。」
「そっか、お前ら一番長いものな、薫・・・・・・様と一緒の時間は。」
少ししょんぼりしている男の背中をバシバシと叩き、水色の袋に入った人を先程の部屋にほうり投げた。
バシャンという音とともに、ゴトンという音が聞こえ、笑い声が聞こえた様な気がした。
男達は厳重に鍵をかけると身震いをしてそそくさと階段を下りていった。
その後、薫とアゲハは、足音をたてないように歩いて階段を下りると、二人は薫の部屋に戻り、ベットに腰掛けた。
「今日から人間でいられると思ったの。生まれた時のように幸せになれると思ったの。薫と約束を守ろうと思ったの。」
「うん。叔父上がようやくアゲハを大事にしてくれると思ったんだ。僕は実の父に殺されるんだ。でも、今日は少し寝よう?疲れてきたから。」
薫とアゲハは揃ってベットに潜り込んだ。
天蓋付きのベットはふかふかしていた。数分も立たないうちに彼らはぐっすり寝てしまった。
彼らは気付いてはいなかったが、部屋に誰かが入って来た。
ゆっくりとパイプから出る煙を見ながら、叔父が入って見ていたのだ。
「コレでようやく研究が完成する。あいつの子供で実験したかいがあったよ。禁忌を起こし続けた家系だ。
姉と結婚したお前のおかげでな・・・姉の桜は私いい助手だったのだよ。
お前の家族は私にとってまたと無いいい機会だったよ。
父の研究が引き継がれなかったのをお前は喜んでいたようだが、
この状況を見ろ息子に殺され、長女に裏切られた気分は・・・・ふっ、はっはっはっ。」
口元に笑いを噛み締めている様な笑顔を残し、言葉を残して部屋を後にした。
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何やらバタバタと走り回る男達の足音と、大声で二人は目を覚ました。
「どうしたんだろう?」
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バタン
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いきおいよく扉が開かれた。
そこには全身血だらけのいつも世話をしてくれる男が立っていた。そして、あの時のお父様のような顔で言った
「薫様。アゲハ様・・・・・・お逃げくだ・・さい。『人形』が動き出・・・しました。はぁ、はぁ、サ・・トハ様・で・・・・・すぅ・・・・・」
男はそういうとずるずると戸口に倒れ込んだ。
近寄ってみると、背中には大きな傷跡があり、下では男達の叫び声が響いていた。
「・・・・薫。」
アゲハは強い衝動に駆り立てられた。血の匂いが館に充満している。
しかし、薫と約束した。自分はもう人を殺さないと・・・・
「サトハよ。お前と愛するものを引き裂くヤツは上にいるぞ。」
緩やかなシルクのガウンを着た叔父が、薫達の方を指差した。
すると、どこから出したのか、のこぎりを取り出すと、嬉しそうに笑った。
薫達は必死に走った。アゲハは途中、ぬいぐるみを放して走った。
「薫っ。はぁ、はぁ、約束破ってもいい?」
「え?約束?」
「そう約束。はぁ、はぁ、はぁ、人を殺さないっていう約束・・・はぁ、はぁ。」
走りながら彼らは約束について話した。
「愛しい子・・・薫、貴方を守る為に約束を破っていい?」
「そうだね・・・いいよ。僕にはアゲハを・・・お母様を守る術はない。父様を止める事が出来ないから。母様、僕は本当に何も出来ないけど、守ってくれるの?」
にっこり笑い、アゲハの部屋に着くと勢いよく扉を開けて、閉めた。
ガタガタと音がする。
アゲハは壁側にある大きな兎のぬいぐるみに隠れながら、やっと会えた唯一の肉親と最後の一日になるかもしれない今を泣いていた。
薫はそんな彼女の仕草を見ながら、僕は死ぬのか。とぼんやりとしかし確実に受け止めていた。
そんな中、彼らの後ろでは男達が大きなドリルで穴を開けようとしていた時だった。
「!!!!!!・・・・・クァハッ」
薫の口からは大量の血が流れ出し、そして、彼の心臓からは大きなドリルが貫いていた。
「薫?!」
アゲハは駆け寄った。薫の胸からドリルがいきおいよく引き抜かれると、薫は糸の切れたマリオネットの様にバタリと倒れ、全身をひきつかせた。
「お・・母・・・・さ、約束・・破っていいからね・・・ねぇ、かあ・・さ・・。」
そういうと薫は息絶えた。
アゲハは、嫌々をしながら薫の体を揺すったが起きる気配がないのを知ると。ムクリと立ち上がった。
「ふふふっ、あはははははははははは。」
薫が、アゲハに最初に出会った頃の声を彼女は出した。
左手からは、鋭利な刃物が飛び出てきて、ドリルを刺した男達を見た。
男達は、漆黒の少女の瞳に魅せられてそこから、動く事が出来なかった。
気付いた時には彼らは首を切断され、床に落ちて転がった瞬間だった。
数十人の男達の首から血しぶきが舞い、床を赤く染めた。
アゲハは目に涙を浮かべて笑っていた。
そして、サトハ・・・いや、もう人間の形をしていない一番上の兄の後ろで笑っている男の姿を見つけると、突進して行ったが、途中、兄に鳩尾を蹴られ吹っ飛んだ。
「い、も、う、と、ア、ゲ、ハ、ぼ、く、の、も、の、つ、れ、て、い、く、や、つ、殺、す。」
もう、妹の顔も覚えていてないのか、片言の言葉で嬉しそうにいつの間に持って来ていたのか、チェーンソーにスイッチを入れて笑った。
アゲハはぞくりとした。感情の無さそうな瞳に魅せられた。
自分が追いつめられていると悟った。薫に近づくと言った。
「薫、あの人に勝てないかも。」
動かない薫の横でアゲハは泣いた。
「大丈夫」という声がアゲハは聞こえた様な気がして薫の方を向いた。
さっきまで、悲しそうにしていた顔が、何だか笑って見えた。
アゲハとサトハだったものは、にらみ合った。
そして、一瞬のスキに勝負がついた。アゲハは、胸から下をごっそりと切られた。
サトハだったものは、アゲハのナイフによって首から血を噴き出していた。
ゴロゴロと床に頭が転がった。
アゲハは最後の気力を振り絞って逃げる叔父の体にナイフを突き立てて切り刻んだ。
そして、サトハだったものと男達の遺体や頭を担ぎ上げると窓から放り投げた。
「薫・・・終わったよ。疲れたね。そんなとこで寝ないで、ベットで寝ましょう?」
ズルリズルリと薫の体を持ってふかふかのベットの上に乗せた。
そして、自分自身も大きなぬいぐるみを持ってベットの上に寝そべった・・・・彼らはもう目覚める事もなく、ただ、今日が夢なんだと思い込むかのように安らかに眠ってしまった・・・・・
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「ねぇ、姉様?この子笑ったよ?」
「何言ってるの。人形は笑わないわ。仲良くしてね、薫。貴方の親なんだから・・。」
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