人形
村人達は勢いよく扉を開け明かりを灯し部屋に入ったが、あまりの凄惨な光景に目をみはった。そこには、はりつけにされ腸が飛び出し、兄と同じように目を抉られた父親の姿があった。
ベットの上には両足を包帯で巻かれ、手には包丁を持ち小さな少女のような人形を抱えた母親の姿があった。
「いったい、何があったんだ・・・・」
村人は口々に言った。
そして、一人の男が何かボソボソ言っている母親のもとに行くと、
「この『人形』を・・密閉したガラスケースに入れて・・保管して、でも・・・血を浴びせないで。あの子・・・を殺して・・・・そして・・アゲハの・・・。」
「アゲハの?」
母親はそのまま事切れてしまった。
耳元で囁かれた男は、大事そうに『人形』を受け取るとバスルームに行き綺麗にソレについた血を洗い流した。
そして、「アゲハ」となる人物が誰なのか、村人全員で屋敷の中をくまなく探した。
手がかりがないものかと・・・・
残された次男はまだ気絶していたし、長女は寝室の前に磔になっている長男に何か言って笑っていたので何も聞けなかったが、
「これじゃないか?」
村で一番の科学者が言った。その写真には若い女がいた。
差し出された写真立てには、沢山血がついていたが、村で一番の科学者が言った。それには若い女がいた。“8人”の家族の写真があった。
そこにいたのは、引きつった笑顔の若い女と、人形と同じ顔をした女の子と、その子そっくりの赤ん坊が写っていた。
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という訳だ。」
話し終わるといきおいよくお茶を店主は飲み干した。
「じゃぁ、その時人形を洗った人って・・・」
「私だよ。そして・・・いや、これは言わないでおこう。君に心臓をくれたのはアレの、いや、「アゲハ」の物だ。これはのちのち君の叔父が話していたのを盗み聞きしたんだがね。」
店主の話を聞いて手をポンと薫は叩いた。何か思い出したようだ。そして、言った。
「彼女は、数ヶ月狂ったように踊りまわり、発狂し、笑って去年の夏に死んだよ。」
「そうですか・・・・名前も分かった事ですし、僕は帰ります。」
足がないのにのどうやって踊ったんだろう?とか薫は考えていたが、外が暗くなり始めたのでドアを開け、店主に会釈した。
すると店主は、
「君、叔父上に気をつけろよ。あの人は自分の欲望の為なら、兄の家族でさえ実験道具にするような男だ。」
「はぁ、わかりました。気をつけます。」
「あの言葉・・どういう意味だろう?まさか・・・・ま、まさかな。ははは、何考えてんだろ家族があの日に亡くなってから僕を育ててくれた叔父上に。」
少し、僕は背中に焦りを感じながら店を出ると馬にまたがり、家路についた。
「はぁ、わかりました。気をつけます。」
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「ただいま、帰りましたぁ。」
「お帰りなさいっ。」
上の方から小さな女の子が、かわいい白いフリルのついた服をひらひらさせながら、階段を駆け下りて来た。
「どうしたの?薫・・兄様?」
少し照れながら、僕の袖をきゅっとつかんだ。
「あは。兄様か。君の名前が分かったよ。」
「え?アタシの名前?」
「そう、名前。『アゲハ』だよ。」
「・・・・・・・・・。」
少し戸惑っているみたいだった。
だが、うつむいていた顔をあげた瞬間、花を咲かせた様なかわいい笑顔で笑った。
前に見た不気味な笑いよりも似合うとぼんやりと思った。
「アタシの名前!母様生きてるかな?」
「去年の夏に亡くなったそうだよ。あと何か聞いたような気がするんだけど、いっか。思い出した時でも。」
僕等は手をつないで階段を上がった。そして、部屋に入ると呼び鈴を押し、使用人を呼んだ。
「どうしましたか?薫様。」
「あれ?じいはどうしたんだ?」
入って来たのは、ごつい体をした男だった。
「彼ならだんな様が、やめさせましたよ?」
「え?病気でもしたのかな?夕食はまだかな?」
「もう出来てますよ。そちらのお嬢様のも用意しますか?」
「そうだね。ところで、叔父上はどこに行ったんだい?」
部屋を出ながら、いつもなら、忙しくても迎えに出てくる叔父に一抹の不安をかかえながら言った。
「旦那様ですか?お客様が来ていらっしゃって後でお食事されるそうです。」
「そう。今日の夕食は何かな?」
「今日は子羊のソテーと新タマネギのポトフとサフランのリゾットに、デザートには洋梨のジュレです。」
「おいしそうだね。」
しっかりとアゲハの手を握って、前を歩く男に話しかけた。
そして、階段を降りきると階段したにある食堂に向かって歩いた。
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ギィィィィ
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扉が開いた。
きらびやかな飾りのついたテーブルや、肖像画などの高価な装飾品が所狭しと飾ってある。食堂の隅っこには、青い光に照らされた水の入ったガラスの中で人のオブジェが不気味に光っていた。
「さぁ、薫様どうぞ。食べ終わったらお知らせください。」
薫に席を勧めると男は少し笑った。
「あぁ、そうだ。この子は僕と同じでいいって言ったけどミルクだけにしてあげて?」
「かしこまりました。」
薫はナイフとフォークを持つとおいしそうに食べ始めた。
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