人形
「さぁ、薫。お母様の所に行こうか。」
「うん。」
二人に言い残すとくるりときびすを変え、しょげている薫をよいしょと肩車すると、バラ園から出て行った。
「あぁ・・・・怖かった。」
ジュリアはヘナヘナと地面に手をついて座り込んだ。
「で、マスター??逃げないでください?」
ルーはぎっくり腰で動けないはずの彼が、上半身をおこしておくことが出来るのかと、先程から疑問視していたので、後ろでゴソゴソ聞こえる音に警戒して声をかけた。
「あれ?オヤジ、腰痛めてんじゃなかったの?」
「どうも嘘みたい。」
「は!?」
「でしょ?最近、様子がおかしいし、変な苗買ってくるしどうしちゃったんですか?」
呆れた顔でルーの言葉を聞いていたが、同感だというふうにジュリアは首を縦に振った。
「だって、安かったし最近苗の市場がよくないし。」
「市場が悪いからって、変なの買ってこないでよ。」
ジュリアは呆れたようにため息をつくと、マスターの頭を小突いてベットの上に座った。
「ジュリアの言う通りですよ?マスター、困るのは旦那様や奥様なんですから。で、誰から買ったんです?」
「う・・・最近話題のサトハエレメンツ・・・・」
「はぁあ!?、あのサトハエレメンツ?!あすこの研究室には異常なほどに子供に執着する研究者がいて、ホムンクルスをつくり出そうとしたり、アンドロイドとか言う化け物に変えたりして楽しんでるそうじゃない。そんなとこから変なもの、珍しいもの買ってくるの禁止。」
「・・・・・・。」
「返事は!!」
「はいぃ!!」
ジュリアの迫力のある声にマスターは、びっくりして兵隊が敬礼するように返事した。
「じゃあ僕は、旦那様に伝えてくるよ。」
「そうね。よろしく。」
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「はぁぁ。」
「お嬢様どうしました?」
大きなため息をついてしょげているエレナを見て加野は、彼女の顔を覗き込んだ。
「加野?また、隣町で女の子が消えたそうよ。しかも、薫と同じ年の子・・・・」
「考え過ぎではないですか。あまり、ストレスを抱えると体調を崩されますよ。」
加野は、外からにぎやかな声が聞こえたのでバルコニーから顔を出した。
「旦那様。」
「あぁ、加野。さっきここに幸太郎が来なかったか?」
「えぇ、何でも緊急の電報だとか。」
懐にしまっていた赤い封筒を取り出すと、ヒューイに手渡した。
ガサゴソと封筒の封を切ると、ヒューイは険しい顔になった。
「どうなさいました?旦那様?」
加野はヒューイの顔が険しくなるにつれ、さっきエレナが言っていた話を思い出していた。
「隣町で女の子がいなくなったんでしょう?。」
沈黙を破る様にエレナが口を開いた。
「いや、さっき本部のシューリッヒ本部長の自宅が何者かに放火されたらしい。彼と奥さんと息子の遺体は見つかったらしいが、彼の末の娘の遺体が見つからないそうだ。」
「そんな・・・・彼もお休みでしたの?」
「あぁ。」
「旦那様、何か心配でも?」
ヒューイの足元にくっついていた薫の手をひいて部屋の中に入ると、険しい顔をしたままのヒューイと悲しそうな顔をしたエレナを見て加野は言った。
「報道では子供がいなくなったとしか、書いてないが実際はどの家も放火されていて、いなくなった子供以外は皆死んでいるんだ。」
「・・・・!!」
どさっという音ともにエレナが椅子の上から落ちた。
「エレナお嬢様!?」
「エレナ!?」
ヒューイと加野は同時に叫んだ。
「お父様?どうしたの?」
薫は二人の声でうとうとしていたのか、少し寝ぼけた様子でバルコニーの方を向いて声をかけた。すると、加野が彼女を抱えたままカーテンに行く手を阻まれて、立ち往生していたので薫は彼にへばりついているカーテンをひいた。
「どうしちゃったの?」
「気を失ったおられるだけですよ。薫様、お嬢様がお目覚めになるまでここで一緒に寝ていてください。」
「うん。添い寝だね。」
薫は靴を脱いで母親の寝ている布団に潜り込むとスヤスヤと眠りだした。
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「薫?起きなさい、薫?」
午後の明るい日差しがベットの中まで照らす気持ちのいい風とともに、薫を揺らすエレナの声が聞こえた。
「ん・・・お母様?」
「あらあら、よく寝てたみたいね。」
ふふふっと笑い、眠い目をこすりながらゴソゴソとベットから出てくる薫の頭をなでた。
「・・・?お母様はもう大丈夫なの?」
「えぇ、気を失ってただけですもの。」
自分を心配してくれている薫の顔を見ながら、エレナは世間の話がこのまま消えてしまえば良いのにと思った。
「どうしたの?お母様?暗い顔をして?・・・さっきお父様の話が怖いの?・」
薫はエレナが倒れる前に話してた事を思い出して寂しくなった。
そして、
「お母様。僕はいなくならないよ?だっていなくなる理由なんてないんだもん。」
薫はえっへんと両手を腰につけ、胸を張った。
「・・・そうね。薫はここにいるんだもの。簡単に親子の縁は切れないわね。さ、おなかすいちゃった。お昼は何かリーナに聞きにいきましょう?」
エレナと薫は手をつなぐと、リーナがいるであろう厨房の方に歩いていった。
そのころ、エレナが気を失い倒れた後、ヒューイは加野と幸太郎は机を挟んで向かい合い、怖い顔をして黙っていた。
しかし、その重い沈黙を破ったのは幸太郎だった。
「ではシューリッヒ本部長の次女、アリス様はかの研究機関に連れ去られたと?」
「あぁ、その可能性が高い。彼はあの極悪だと言われる例の研究機関に内部調査として何人かの部下を送り込んでいるが、誰もが行方不明、事故、自殺でこの世からいなくなっている。」
「では・・・・」
「彼が何かを突き止めたのは分かっているが、聞く前に亡くなってしまった。」
ヒューイは頭を抱え、「彼はとてもいいやつだったのに」と声を殺して泣いた。
「旦那様、一つお聞きしても宜しいですか?」
「あぁ、どうした。」
「その死んだ部下には子供はいらっしゃったんですか?」
「あぁ。皆女の子だったそうだが、彼女達も・・・・・」
ヒューイは、そう言いかけて固まった。
「どうしたんですか?旦那様?」
幸太郎と加野は難しい顔をして考え事をし始めたヒューイを見て言った。
ちょうどその時、部屋の扉が勢いよく開き、ルーが入ってきた。
「あ・・・・何か。今入ってきたらヤバかった????」
「・・・・あれほど、入ってくるときはノックを・・・と」
加野は、「はぁ・・・」とため息をつき頭をポリポリかくと、入り口まで歩きながら言った。
「ごめーん。執事様。」
「まったく、ここの子はどうしてこう礼儀がなってないですかねぇ。まったくエレナお嬢様が甘やかし過ぎなんですよ。そう思いませんか?幸太郎。」
「まぁ、いいじゃないですか。今のこの重たい空気をはねのけてくれたんですから。」
幸太郎は、ふふっと笑うとバラの葉っぱだらけになって息を切らせて入ってきたルーの肩を、ポンと叩いた。
「で、ルー。君は何をしにきたんだい?」
「え?あぁ、旦那様にね、マスタがしょっちゅう変な苗を買ってくるから、その出所がどこなのか聞いておけって言われたから、報告しに来たんだけど。今やっぱり、まずかった?」
「いや、かまわないよ。ルー。」
難しい顔をしながら、ヒューイはルーの方を見るとにこっと笑った。
「よかった。僕が聞いちゃいけない話してんのかと。」
「ははっ。そんなことないよ。で、どこだったんだい?」
「最悪ですよ。どこだと思います?」
ものすごい顔をしながら、ルーはヒューイの方に歩み寄った。
「?」
「あの極悪研究機関「サトハエレメンツ」ですよ!!」
ルーの言葉に三人が凍り付く。
そんな三人に、ルーは何かまずい事を言ったのかと、青ざめて固まってしまった。
「あぁ、そんなに固まらなくていいよ。」
「そ・・・・ですか?」
ルーは青ざめたままクルリと回れ右をすると、部屋の外に出て行った。
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