人形
「やはり、黒幕は例の研究機関でしたか。」
「そのようだな。亡くなった部下達はそれぞれ薫と同じ施設から子供を貰っている。」
「では・・・」
「それは無いだろう。薫は正真正銘の男の子だ。シューリッヒには申し訳ないが、薫は大丈夫だろう。」
三人は、ルーが入ってくる前以上に暗い顔をして、ため息をついた。
「しかし、どうしましょう?・・・・ところで。」
「ん?」
「マスターの買ってくる苗っていうのは?」
「あぁ、例の機関から流れてくる不良品らしくてな、小さな子供を食べる食人植物とか、有害物質が出る植物とかが市場に出回っているらしい。たぶんそれだ。」
幸太郎は頭を抱えて叫んだ。
「あんのバカ親父!!すみません。旦那様・・・」
「何を謝ってる。君のやったことではないだろう?」
「しかし、身内ですから。」
申し訳なさそうに幸太郎は頭を深々と下げた。
「まぁ、片っ端からジュリアが焼いているみたいだけどね。心配ないと思うよ。」
「そうでしょうか。ココ最近頻発している事件の場所にはその・・・」
「その?」
「その・・・。その、おばけ植物が多く庭に植えられていたらしく、消防隊も近隣の者も立ち入れなかったとかで・・・」
おずおずと幸太郎はイスに座りながら言った。
「しかし、シューリッヒの庭にはそんなもの無かったぞ?」
「いえ、あったそうです。アリス様のお部屋に。」
「・・・・そうか。」
ヒューイはうなだれた。まさかとは思うが、あのシューリッヒが買い与えたとは思えないし、どうして、その植物がある所ばかりが狙われるのかが心配になってきた。
「幸太郎。」
「はい?」
「マスターにはよくよく言い聞かせて、買わない様に言っておいてくれ。」
「はい。」
「それから、本部に行って例の機関から流れてきているであろう植物を一斉捜査して、破棄するように伝えてくれ。そして、出来るならば買った者には罰金制度を作る様にと。」
「わかりました。伝えておきます。もちろん、マスターにも。」
深々をお辞儀をすると、幸太郎は急ぎ足で玄関の方に向かって行った。
「さて、マスターの処分はどうなさいますか?」
「そうだな。苗の買い付けはジュリアとミセス安津子に任せよう。当分マスターは本邸の庭から出る事を禁じ、行商など来ても買う事を禁じる。これでいいかな?」
「そうですね。買っているのを見つけ次第、即刻解雇したほうがいいかもしれませんね。」
「そうだな。そこのところは加野、君に任せるよ。珍しい物好きには困るな。」
「えぇ。」
加野は困った顔をしながら笑った。
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コンコン
「旦那様ー??」
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ノックの音と共にリーナが顔を出した。
「あ、いた。エレナ奥様と薫様が起きられて、外で昼食をとっておられますけど・・・いかがなさいます?」
「あ、いた。じゃないでしょう。」
「・・・執事様。」
「まぁまぁ。」
あきれ顔の加野と少しいじけたリーナの顔を交互に見ながら、ヒューイは二人の肩を組んだ。
「さぁ、二人とものどかな庭で、食事にしよう。リーナ、メイド達を呼んで皆で外で食事をしようじゃないか。」
「旦那様、それはいけません。」
「たまにはいいじゃないか、君はジュリア達を呼んできてくれ。」
「まったく・・・」
ブツブツと文句を言いつつ、加野はヒューイに一礼すると規則正しい足音をたてながら庭の方へ歩いていった。
リーナは、走っていこうとしたが、ヒューイの手前競歩するように変な歩き方をしてスタスタと歩いて行ってしまった。
「二人とも面白いなぁ。」
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「お父様ぁーーーっ」
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声がする方に振り返ると、たくさんのバラの花束を抱えて走ってくる薫を見つけた。
「どうしたんだい。そんなにバラを抱えて。」
「だって朝、お父様がバラをジャムやゼリーにしたいって言ってたから、ミセス安津子に頼んで、ジャムに出来るバラを貰ってきたんだよ。」
汗をキラキラ光らせながら、太陽みたいに顔を明るくして笑った。
ヒューイは、先ほどの恐ろしい話を少し思い出したが、こんなに明るく笑う我が子と愛しいエレナの為に被害者として名が乗らない様にしようと決意しつつ、薫に悟られないように、大きな声で笑った。
「はっはっはっ。そうか、薫。よく覚えていたな。よし、リーナの所に持って行って皆で外で食事をしよう。」
「リーナ達も?」
「そう、リーナも加野もルー達も。だ。」
「加野さんに怒られなかった?それはいけませんっって。」
「ん?あははははは。よく分かったな。でも、お父様が良しとしたんだ、それでいいんだよ。」
「ふぅーん。よくわかんないや。」
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その日の午後はとても楽しかった。
リーナやその他のメイド達の作るバラのジャムはおいしかったし、執事の入れるダージリンティーは蜂蜜をひとさじ入れる事でほのかな甘い香りと、ダージリンティーのおいしさが引き立った。
マスターはお父様と幸太郎さんの足下でひらすら頭を下げていて、ジュリアとミセス安津子はいつものようにハサミをジョキジョキいわせて、マスターとルーを追いかけ回していた。
「こんな日がいつまでも楽しく続けばいいわね。」
お母様はそう言うと、家庭教師のリデルの奏でる曲に合わせてお父様と軽やかに踊りだした。
加野さんは
「お嬢様!無理をなさらないでください!!」
とおろおろしてて、まるで僕が高い木の上で遊んでいるのを目撃した時のお父様のようだった。
そして、その楽しい時間は、近所のおば様達を巻き込んで夜遅くまで、笑ったり遊んだりした。
夜寝る頃には、僕は疲れ果てて寝てしまった。
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